福岡地方裁判所行橋支部 昭和60年(ワ)34号 判決 1986年9月30日
原告
内山武
被告
沖田克男
ほか一名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し二四〇万七七九五円及び内金二二〇万七七九五円に対する昭和五九年四月四日から、内金二〇万円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文同旨
2 仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 発生日時 昭和五九年四月四日午後二時三〇分頃
(二) 発生場所 北九州市小倉北区浅野二丁目一四番地先路上
(三) 加害車両及び運転者 普通貨物自動車(車両番号北九州四四ほ二〇一三、以下被告車という。)
被告沖田
(四) 被害車両及び運転者 普通乗用自動車(車両番号北九州五五い七五七三、以下原告車という。)
原告
(五) 事故の態様 追突
2 責任原因
(一) 被告沖田の民法七〇九条による責任
被告沖田は前方不注視の過失により本件事故を発生させた。
(二) 被告日通工販売株式会社の自賠法三条による責任
被告日通工販売株式会社(以下被告会社という。)は被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。
3 受傷とその治療
(一) 病名 頸椎捻挫、腰椎捻挫、慢性肝炎、慢性胃炎
(二) 病院 宮崎外科病院
(三) 治療期間 入院昭和五九年四月九日から同五九年七月一八日まで一〇一日間
通院昭和五九年七月二三日から同五九年一〇月一日まで七一日間(実治療日数一一日)
4 損害
(一) 治療費 三万九二四七円
(二) 文書料 七五〇〇円
(三) 入院雑費 一〇万一〇〇〇円
一日当り一〇〇〇円の一〇一日分
(四) 交通費 八四〇〇円
(五) 休業損害 九五万一六四八円
休業期間 昭和59年4月5日から同59年11月28日まで238日
(34万2,367円+1万7,500円)÷90×238日=95万1,648円
(六) 慰謝料 一一〇万円
(七) 弁護士費用 二〇万円
5 結論
よつて、原告は被告ら各自に対し、損害合計二四〇万七七九五円及びこのうち弁護士費用を除いた損害二二〇万七七九五円に対する本件事故の日から、弁護士費用二〇万円に対する本件口頭弁論終結の日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の各事実は認める。
同3の事実のうち(二)(三)は認め、その余は否認する。
なお原告主張の傷病及び治療は本件事故と因果関係がないものである。
同4の事実は否認する。
三 抗弁
原告は本件事故による損害につき自賠責保険金一一七万円の支払を受けた。
四 抗弁に対する認否
認める。
第三証拠
証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 本件事故の発生及び責任
請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがないので、被告沖田は民法七〇九条に基づき、被告会社は自賠法三条に基づきそれぞれ原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。
二 本件事故と原告の傷害との因果関係
1 いずれも成立に争いのない甲第一三、第一四号証、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二、第三号証、証人宮崎範文の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、原告(昭和一四年三月二八日生)は、本件事故日である昭和五九年四月四日頭痛等を訴え小文字病院を受診し、頸椎捻挫の病名で同月六日まで通院(実日数二日)したこと、次いで原告は頭痛、頸部痛、手の痺感、吐気、食欲不振等を訴え同月九日宮崎外科病院を受診し、頸椎捻挫、腰椎捻挫、慢性肝炎、慢性胃炎の病名で同日から同年七月一九日まで入院し、同月二三日から同年一〇月一日まで通院(実日数一一日)して、神経ブロツク、理学療法、薬物療法等による治療を受けたが、なお右同様の自覚症状を訴えていることが認められる。
2 ところで、被告は原告の右傷害と本件事故との因果関係を争うので、この点につき判断する。
(一) 衝突の程度
原本の存在と成立に争いのない乙第七号証、証人大谷正紀の証言により真正に成立したものと認められる同第五号証、右証人の証言により本件事故当日原告車を撮影した写真であることが認められる同第六号証(但し撮影対象については当事者間に争いがない)、右証人の証言、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、被告沖田の運転する被告車(普通貨物自動車長さ四・一四メートル、幅約一・六メートル、高さ約一・三九メートル)は、信号待ちのために、同じく信号待ちのため停車していた原告運転の原告車(普通乗用自動車長約四・三六メートル、幅約一・六四メートル、高さ約一・四メートル)の後方に約一・二メートルの間隔をとつて停車したが、その際被告沖田はブレーキペタルとクラツチペタルを踏んでいた両足を誤つて同時に離してしまつたため、エンジンの力で被告車が動き出し、直ちにブレーキをかけたが間に合わず被告車の前部が原告車の後部バンバーに追突したこと、原告車は右停止地点から殆ど移動せず、被告車は原告車にほぼ接触した状態で停止したこと、その結果原告車の後部バンバーに多少歪みが生じたこと、なお原告車のリヤーバンバーの取替えの部品代として一万三七〇〇円を要したことが認められる。
ところでいずれも成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、同第四号証の一、二及び証人宮崎範文の証言によれば、人間の頭部が後方へ曲がりうる生理的限界角度は平均六一度であり、頭部が右限界角度を超えて後方へ曲つたときに所謂鞭打症が生じうるところ、被追突車の乗員の頭部を生理的限界角度以上に後方に曲げさせるのは追突速度が概ね時速一六キロメートル程度以上の場合の衝撃であることが認められるところ、前記認定の被告車の発進状況、原被告車の移動距離並びに原告車の破損の程度等から考えると、被告車が発進した際の速度は前記速度を下回る極めて低速度であつたものと推認されるから、追突による衝撃の程度は軽微であつて、被追突車の乗員である原告に対し頸部を生理的限界角度以上に後ろへ曲げさせたとまでは認め難いところである。
(二) 原告の既往症等
証人宮崎範文の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告には本件事故以前より既に加齢性の頸椎、腰椎の変形があつたものであるが、これを除いて前記認定の原告の愁訴を裏付ける他覚的所見は格別ないこと、なお原告の慢性肝炎、慢性胃炎の疾患に本件事故を原因とするものではないことが認められる。
(三) 以上認定事実を総合して判断すると、原告は本件事故により心身にかなり深刻な影響を受けたように受取られるものの、それを裏付けるに相当な本件事故に起因すると解すべき他覚的所見は格別ないのみならず、本件追突は被追突車の乗員の身体に影響を及ぼす程度の衝撃があつたとまではなお認め難いこと、加えて原告には本件事故以前よりもともと頸椎等の変形があつたこと等に鑑みると、原告は本件事故の際頸椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を受けたとは未だ断じ得ないというべきである。
結局原告の受傷の主張事実にそう前掲各証拠をもつてはこれを認むることができず、他に右事実を認むるに足りる的確な証拠は本件を通じ存しない。
三 結論
よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小山邦和)